MELON会員団体訪問記 第11弾 三浦農園~市民運動とつながる農業~

【訪問情報】
■訪問日:2023年3月22日(木)
■訪問先:三浦農園
■訪問者:
インタビュアー:MELON理事 石垣政裕、写真:亀崎英二、文:MELON情報センター 早川昌子、小山田陽奈

 宮城県名取市には、古くからのセリ農家の集落があります。
 その集落に400年前から家業として農業を営まれていてMELONの理事でもある三浦隆弘さんを取材しました。

セリ鍋の誕生秘話

 郷土料理のお雑煮に入る具は地域ごとに異なります。東北6県のお雑煮にはセリ、関東では小松菜、関西では水菜など。また、仙台では、焼いたハゼ、ナメタガレイなどは年取り魚と呼び、お正月前後で需要があるので値段が上がります。三浦さんのお話は、そんな郷土料理の話から始まりました。
 「お正月前後の2週間くらいはセリの価格も上がります。その間にできるだけ多く販売することを優先しすぎると、セリの美味しさと鮮度が犠牲になる場合もあって。」と三浦さん。
 三浦さんは、今では宮城県内外ですっかり定着した『セリ鍋』の発案者でもあります。
 「1980年代にテレビで放映されていたビールのCMを見て、これだ!と思いました。そのCMにはビールとセットで、きりたんぽ、マイタケ、鍋スープ、セリが並べられていて、きりたんぽ鍋がブームになって、秋田のきりたんぽ美味しいね、と言いながらみんなで名取のセリを食べていたんですよ(笑)。それで、食べていくうちに、名取のセリをちゃんと評価して欲しいなと。」
三浦さんによると、セリが一番おいしいのは3月中旬から下旬ぐらいで、商品の旬ではなく、野菜の旬を食べて欲しい、産地の近くで食べて欲しい、地元資本のお店で食べて欲しいという3本柱で、マーケター側ではなく市民運動側の論点を言い続けています。

 「仙台は東北初出展を消費する街になっていて、仙台にしかないもの、宮城にしかないものって何があるんだろうと。まだまだ少ないなと。震災があり、お客さんが来たときに、あの時助けてくれてありがとうございました、と地元の食材でもてなしたい、それがセリ鍋はうまくハマったんですね。」
 三浦さんは、地域のものを掘り起こして価値を高めるという料理人側のブームにも乗ったのではないかと分析します。「トレンドで見ても、かつては、東京の街中で流行っている店を田舎の人がテレビで見ていたけど、今は、漁村の半島の端っこの食堂でこんなものが流行っているというのを都会の人たちがタワーマンションで見るというふうに逆になりましたね。仙台の人たちは草の根っこを食べて喜んでる!という具合ですね。セリ鍋を利権化するのではなく、むしろ開いていって、大事なのは地元資本にお金を落とすこと。地元の素材をローカルプライドとして心の隙間を埋めるというのが、私がずっとやり続けているところの本筋のところです。」
 三浦さんは、セリは教材であり、みんなでセリを作ってみんなで食べることにより、地元の施設の充実や予算につながることをMELONでお世話になっている方々から学んだそうです。

セリづくりと市民運動

 「農家は一生懸命作って、それが高く売れればいいとは思いますが、そのセリをどういう風に食べてくれるのかとか、あるいは、自分たちのその先に対してどのぐらいのプライドを持てるかという風になった時、そういうセリのつくり方というのはすごいなというふうに思います。自分たちは食べ物を作るだけで精一杯なんですけど。でも、こうやって、セリを作ることの意味というか、いろいろな市民運動なんかとつながっているんですよね。」
 名取市の下余田地区には70軒くらいのセリ農家さんがあり、セリの育成は全て手作業で、おじいちゃんおばあちゃんも関われるのだそうです。
 「何か流行っているトレンドやブームにみんなが参加できるような隙間を必ず作るようにしています。ですから、みんながセリ鍋について語れて、まるで、自分が開発したかのように、自分が作ってるものを誇りに思って話すことができるような仕掛けです。この町いい町だろう、とみんなが言えるように。セリを通して、これ知ってる俺ってすごいだろうみたいな。」

三浦さんとMELON

 三浦さんは、MELON会員になった二十歳くらいの頃、南アフリカで開催されたヨハネスブルグサミットにMELONの代表として参加され、現地の農家の方や元気で若い環境NGOの方に出会ったそうです。
「日本でいうと交流型NGOとか政策提言型NGOといった言い方をしていましたが、エコ・リーグ、地球の友、アシードジャパンなんかですね。NPO法ができるできない以前に、多感な20代を過ごして、農家なら何ができるかということを情報の編集や出し入れをしていく中で考えました。在来作物だからこそできること、グラスルーツムーブメントという言い方をされますが草の根運動ですね。」
 三浦さんは、市民運動と環境と自分の生業のバランス感覚をいろんな方に教えてもらったそうです。そして、当事者である市民が地道に行動することで文化になり、グローバル資本にすくい取られるだけでなく、ローカルで暮らせるビジネスモデルをつくれるのではないか、と考えるようになりました。
 「コスト幾らで売り上げは・・・と、計算だけに偏ってしまわないよう、お米をいっぱい食べたらゲンゴロウが何匹助けられるという観念的な情緒的な話ができるような引き出しを作らせてもらったのはMELONで学んだところなんです。」

地球温暖化と生態系を作る農業

 三浦農園では、セリの他にも季節ごとに様々な在来作物を取り混ぜてつくられています。三浦さんによると、就農当時(今から20年前)と同じ栽培計画と比べて3週間くらい早まっているそうです。雨の降り方も変わり、高温障害により、今までなかった病気などもみられ、腐敗による菌をハエなどの飛来してくる害虫が持ってくるのだそうです。
 「仙台はここ10年、雪がほとんど積もらない。そうすると、越冬する害虫が年々増えている。雑草も変わりつつあります。耐えられるかどうかは、農家のこれからの技術だと思います。観察して、いかに薬剤を使わずに対抗できるかです。いかに観察力を高められるかということと、農学の知識を総動員する。アレロパシーとかリサージェンスとかも言われていますが、葉っぱを食べる虫の天敵をこっち側に作るみたいな。生態系を作るというのが、今の農業のやり方になります。薬剤じゃないやり方って幾らでも技術開発されています。学び直しが止まっちゃうのが怖いんですよ。本当に毎年、毎年いろいろな技術や発見や知見が出てくる。ほんとに面白いです。でも、観察すらしていなかったら、風が強くなってきたなとか、もうすぐ暗くなってくるといったことが体感として分かるかどうかです。スマホやパソコンのアプリもいいけれど、それだと自分の感性が劣化してくる。」と三浦さん。
 三浦さんは、地元の小学5年生の総合学習の田んぼの先生をされていたり、キャリアデザインを学ぶ場として、学区内の方々に古代米を持ち込み製品にしてもらい、子どもたちが販売や接客の体験ができる機会をつくったりもされています。また、三浦農園をレポートや論文の対象にしている大学生や研究室もあるそうです。

大人の学び場「仙臺農塾」

 MELON情報誌の読者アンケートの回答の中に、「仙臺農塾が再開されたら参加したい」という声がありました。仙臺農塾は、飲食をともなう講座のため、コロナ禍で、しばらく開催されていません。
 「仙臺農塾は、グルメ運動で食べて終わりではなく、自分を変えるための大人の学びの機能として、飲食店に食材を納めている漁師さんや農家さんを呼んで、シェフが出す調理された料理を食べながら話を聞き出すというものです。講座というのかな、5年後、10年後も使えるプログラムコンテンツだと思います。誰かと一緒にご飯を食べられる環境になれば、再開の条件が整う感覚はあります。事務局で全てが完結するのではなく、拠点を移しながら、そこへ行ったらMELONが何かやってるよという感じでね。」
 自らをアクティビストと呼び、市民運動と環境と農業のバランス感覚を大切にする三浦さん。生態系をつくるという考え方で営まれる三浦農園。
 宮城県の名物となったセリ鍋は、三浦さんがMELONで活動しなければ生まれなかったのかもしれません。取材を通して、MELONの30年間の歩みの一部分を垣間見ることができました。

※MELONは2023年6月に設立30年を迎えます。

■称  号:三浦農園
■事業内容:セリをはじめとした在来作物を栽培する農家
■設  立: 今から400年前
■所 在 地 :宮城県名取市下余田