【寄稿文】消費者として知ることの大切さ~名取のせり農家・三浦隆弘さんに聞くせりのよもやま話~

30周年記念事業「MELONみやぎSDGs環境アドベンチャー」の一環として、2024年2月に開催された仙臺農塾「せりのよもやま話」。催事に参加したMELON理事の中山朋子さんから寄せられた寄稿文をご紹介します。

【開催概要】※当日の開催レポートは、こちらからご覧ください。
●日時:2024年2月16日(金) 18:30~20:00
●場所:びすた〜り榴ヶ岡(仙台市宮城野区榴ヶ岡5番地 みやぎNPOプラザ1階)
●講師:三浦隆弘氏(三浦農園/MELON理事)
●参加者:21名
【文】自然農場 風天/MELON理事 中山朋子氏
【写真・編集】MELON 小山田陽奈

はじめに

2020年3月以来、約4年ぶりの開催となった仙臺農塾。宮城のこだわりの食をテーマに、ゲストを招いてお話を聞き、美味しい食事を楽しみながら真面目に学べる大人の食育講座です。 再開第一弾のテーマは「せり」。近年は「せり鍋」が仙台の冬の風物詩として全国的に話題を集めています。名取市のせり農家、三浦隆弘さんをゲストにせり田の生育環境やせり鍋ムーブメントについて思いを伺いました。

三浦さんのせりが美味しい理由

三浦農園のせり田では、ハクセキレイやシギ・サギ、トンボ、カエル、ゲンゴロウ、クモ、イトミミズなど多くの生き物が息づいています。
イモムシや幼虫などせりにとっての害虫を鳥や虫たちが食べ、イトミミズが栄養豊富で柔らかな土を作る。名取川伏流水の豊富な地下水とその土が、セリの特徴である根を雑味が少ない白く太い根に育てています。
農薬や肥料に頼らず、周辺の田んぼとせり田の間で生き物が行き交い多くの生き物が集う。「生物多様性の豊かさの結果としてせりが美味しくなる」と言う三浦さんは、いかに生態系を豊かにして、せりが栽培しやすい環境を作るかを大切にされています。

「せり鍋」の独自性

江戸時代から栽培されていた名取のせりですが、仙台雑煮と春の七草の需要がピークで、あとは売れ残るような脇役食材でした。
冬の時期、特に2~3月に一番美味しくなる根せりをもっと知ってほしいと、三浦さんが料理人と共に編み出したのが「せり鍋」です。
2003年ごろから始めたせり鍋は、2009年頃から地元の食材にこだわる複数の飲食店で展開が広がり始めました。
白い根から葉先まで、すべてを味わう「せり鍋」をきっかけにせりへの世間の認識は大きく変わります。
「仙台ならではのもの。地元で作って、地元で食べる、地元で大事にされるものが作りたかった。」と言う三浦さん。
仙台には牛タンやずんだもちなど多くの名物がありますが、その原材料が鮮度の良い地元のものであることが大切な名物はせり鍋以外にはないかもしれません。
せりの出荷量は、生産者の高齢化などにより年々減少している一方、せりの出荷金額は微増しています。生産量が減り、さらにせり鍋が浸透してきたことにより需要が増え、この20年でせりの値段は倍になっているそうです。
かつて一時だけ求められていたせりが、仙台から全国に広がる一大ムーブメントになっています。

ローカルな食の課題

せり鍋の広がりにより、せりを求める声は高まっているものの、それに対応できるだけの生産体制が整っていないのが現状です。せりは名取の他、「河北せり」の石巻や登米でも生産されていますが、需要にはこたえきれていません。
伝統野菜として、小規模農家が家族で作っていましたが、新しいせり農家を育てないまま今に至ってしまったことが現在の課題になっています。
生産側の課題だけでなく、販売店や飲食店での品質管理の徹底も課題となっています。
せりは野菜の中でも鮮度の劣化が特に早い食材です。時間が経過したり適切に保管しないとせりの根は黒くなってしまいます。せり鍋にするためには、根についた土をひとつずつ丁寧に洗わなくてはなりません。
東北中で求められているせりの生産者を増やして欠品をなくし、さらに栽培管理方法を改善していく。せりの品質管理を定着させるためにリテラシーを高めることが今後の課題と言います。
伝統野菜は、その作物を全国から集めるのではなく、本当の伝統野菜を学ぶ機会をつくり知る人が増えなければ、食卓につながらない。生業として成り立たたせることができない。その危機感が三浦さんの取り組みのもとになっているそうです。

食文化の醸成とこれから

「金銭的な価値ではなく、生物多様性、食文化の視点にこそ光を当てたい。」と思いを伝える三浦さん。
1年中同じ味で全国展開するのではなく、畑や田んぼの都合に合わせて、その時期その土地で美味しい食材こそが地域の食文化の源になります。
せり鍋をアイドルがSNSで紹介したことで、聖地巡礼としてファンがせり鍋を食べに来たという話もあるそうです。
「地元の人が大事にしてくれることと、新しい人が出会い続けることが継続していくことにつながる。」と言う三浦さん。
せり鍋は、冬の仙台に来たら食べてほしいこの時期ならではのおもてなしとして、仙台のローカルプライド(地域を誇る思い)になっています。同時に、名取のせりを食べることは貴重な生物の生息地を守ることにつながっているのです。
三浦さんの、代々のせり農家として過去から未来へとつなげていく思いの強さと、消費者としてその時期その土地にどんな食素材があるのか、食文化があるのか、知ることの大切さを学んだ仙臺農塾でした。
三浦さんのお話を伺い、需要に合わせてエネルギーをかけて生産するのではなく、作物の旬に合わせて地元の食材を地元ならではの食べ方で味わう。この季節限定の幸せな食べ方が、地元の生産や環境保全を支援することにつながることを実感しました。
まさにおいしいエシカル消費(※)。
「ぜひ、せりを育ててみてください」と三浦さんが教えてくれたのは、せりは根を水につけておくと伸びてきてまた食べることができるとのこと。まずは新鮮な地元のせりを購入して、実際に育ててみることから始めてみようと思います。

会場のびすた~り榴ヶ岡は、特定非営利活動法人ほっぷの森さんが運営する就労継続支援事業A型の農福連携型レストランです。今回は三浦さんのせりを使用した特別メニューを提供してくださいました。前日に収穫したせりの瑞々しい美味しさを堪能しました。

※エシカル消費とは:地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のこと

参加者の声(アンケートより一部抜粋)

・その土地の生態系を豊かにして、そこに育つものを大事に育てるという考えが印象に残りました。
・野菜がどのような環境で育ったのか、作り手などの背景も意識したいと思いました。
・地元産の野菜をはじめ、海のもの、山のものをいただくことを続けていきたい。
・講話中のビデオの中のイトミミズのフンがすごい!
・消費者の我々にも「“セリ”を作ってみてください」という三浦さんの呼びかけにハッとさせられました。当事者とはなんだろう?自分で壁を作っているのかも。
・セリは単体(鍋やおせち)で食べる野菜と思っていましたが、リゾット、オムレツ、ポタージュ…と料理の中にしのばせることで、色々な味や風味が感じられて、愉しいと思いました。